聴く専門家が「話を聴ける」ようになるまで

聴く専門家が「話を聴ける」ようになるまで

どうすれば話を聴けるようになるのか

キャリアコンサルタントである私は、今では「話を聴く」ということを仕事にしているが、簡単なものではなかったなと今だからこそ思う。
「話が聴けてないですね。もう少し寄り添いましょう」
過去に私が、良く指摘されていたフレーズだ。
話題も合わせているし、悲しいって言ったら悲しいんですねって返している。
何が悪いのか、正直全然わからなかった。

あなたにも、もしかしたらあるかもしれない。
こんなに頑張っているのに、指摘ばかりされてしまうということが。
当時の私は、それが悔しくて悔しくてたまらなかった。
「なんかちょっと違う。聞いてもらえてる感じがない」
「もうちょっとここ聞いてあげたらいいのに」
「うまくいけないけど表面的な感じがありました」
「アドバイスはいらない」
少し思い出すだけでも、当時かなりのご指摘を受けていたと思う。
それだけ、私にとって聴くということは高いハードルだった。

がむしゃらに本を読んで、別の講座にも申し込んで、色々な先生に話をうかがって。
できることを何でもしてやろうと思ってやっていたように思う。

ある時、私は自分が相談するということを経験することになった。
相手は自分より年上のおじさん。
50代前半だろうか、名前も名乗らずに今日はどうしたの?から始まる面談。
結論から言って、何かが解決したかというと一切何も解決していない。
正直、今思えば全然うまいと思えなかったのだと思う。
話を聞いてもらえていないという感覚を、その時肌で感じた。

何でこんなにイライラしてるんだろう…
何がこんなに不愉快なんだろう…
私はいつ、この面談を諦めたのだろう…
様々なことを思いながら家に帰ったのを覚えている。

その気持ちがどうしてもぬぐえなかった私は、次の機会にキャリアコンサルタントの先生にその日の話を聞いてみた。

その時のことは今も覚えている。
「それが、聞いてもらえてないってことだよ」
これが、その時の全てだった。
私は、ハッと気づいた。
この気持ちを、私は人に味わわせていたのか…
大きな衝撃だった。

そのあと私は、自分の面談をしっかりと録音しながら振り返るということを何度も続けた。
私がその時感じたのは、聞くということにはいくつかのパターンがある。
漢字で書くなら、「聞く」「訊く」そして、「聴く」
私がやっていたのは最初の二つでしかなくて、聴けていなかった。

ではどうすれば話を聴けるようになるのか
私は、興味を向けて、相手に寄り添うことだと思っている。
実は、先ほどの漢字の違いにも大きく現れている。
「聞く」というのは、話を耳にするという程度。
また、「訊く」というときは情報を引き出す/尋ねるといった意味がある。
しかし、「聴く」というのは違う。
体全体で、相手の話に耳を傾け、興味を持ち続けるような姿勢をいう。

漢字を分解しても面白い。
訊くという字は、言葉で瞬時に相手を斬る様を表しているのだそうだ。
すなわち、ききたいことだけを質問するという聞き手が主体の行為と言える。

聞くというのは、元々神様のお告げを受け取れる人を表している。
相手は神様。
理解しようとか、分かりあおうとかそのような意図を介する余地がなく、耳に届いていることが大事だった。
だからこそ、聞こえていることそのものに価値があった。

しかし、聴くというのは違う。
耳と十の目と心と書いて聴くと読みます。
上の二つの“きく”に比べて、目と心が追加されているほど、聴いている相手に関心を示している状態なんです。

目で見て、今その人がどんな状態なのかを感じ取る。
相手の話を受け止めて、心の中で一緒に味わう。
そのような聴き方が必要になってくる。
そうすることで、相手に興味を向けながら寄り添うということができるように思います。
言うまでもないですが、話をきく際には、ぜひ「聴いて」欲しいと思います。

その為に今すぐ起こせるアクションがあります。
それは姿勢を意識することと、うなずきや相槌をしっかりすることです。
姿勢って?と言われる方がいるかもしれません。
あなたも思い返してみて下さい。
例えば、パソコンを使っている際に後ろから話しかけられたとして、作業を止めて、相手の方を向いて、目線を合わせているでしょうか。
傾聴するには、まずそこまでやるのが良いでしょう。

そうして話を聴いていくと、次第に体が相手の方に傾いていきます。
見たいものを見る時に背伸びをするのと同じで、興味を持って聞くときには、相手の方に体が勝手に動くんです。
動かないって人がいても、大丈夫です。
そういう場合は、自分から少し相手の方に体を傾けてみて下さい。
相手にも、聴こうとする姿勢が伝わりますし、自分も良く聴けるようになりますよ。

次に、うなずきや相槌はしっかりと入れましょう。
相手に伝わらないともったいないので、オンラインでやってる場合などは大げさにやってもいいかもしれないくらいです。
人それぞれにうなずいたり相槌を入れたりするときの言葉というのはあるかと思いますが、否定だけはしないようにしましょう。
「でも」
「しかし、実際には」
「そうは言いましても」
このような言葉が使われてしまうと、自由な話は阻害されてしまいます。
否定されてもいい話や、意見が聞きたかった話ばかりを話題として選ぶようになってしまったりするというのも、普段カウンセリングをする中で感じるところです。
「うんうん」
「それでどうなったの?」
「そうだったのですね」
簡単なフレーズで良いので、相手を受け入れ、話の先を促すように配慮してみて下さい。

アドバイスしたがりの人は要注意です。
「あんたは私の話を聴いてくれない!」
なんて、パートナーに言われたことがある方は特に注意かもしれません。
アドバイスが悪いというのではなく、その場は相手が「話したい」のです。
あなたの意見を聞きたいわけではないので、聴くタイミングであることをしっかりと意識していくと良いですよ。

聴くというのは、常に相手が主体です。
聴いてほしいという相手には、まず体全体で聴いてあげてください。
体を相手の方に向ける。
相手の方に体を傾ける。
ちゃんとうなずく。
相槌を打つ。

話を聴いてと言われたら、ぜひこれらを意識してみてください。
それが話を聴くということになりますよ。

投稿者プロフィール

木村 俊夫
木村 俊夫
自信が無くて引きこもっていた自分が前に進めたきっかけは「聴いてくれる人」でした。大学卒業後から起業し「聴く」ことをベースに活動をしています。教育、面接、マネジメント、カウンセリング、講師と様々な複業の実践家でもある。
現在は「カウンセリング」の良さを広げる伝道師として活動を続けている。