“制度”はあるが“〇〇〇”がない?今必要なストレス対策とは
- 2020.08.13
- 健康/メンタルヘルス/気分
「面白い記事がありましたよ」
一緒に仕事をしている人との間で使っているSNSの全体チャンネルで、ある記事が共有された。
内容は『Wrike社が行った、会社員の働き方とストレス・生産性の関係調査』というものだった。
“制度”を充実させても、“こころ”は充実しない
直感的にそう思った。
こころの充実とは、自分を受け入れてくれる人がいるとの実感だと私は考えている。
小さい会社は、制度こそ多くないが、活用に理解がある。
つまり、何のために作った制度なのかを全員が知っており、それを利用する時には快く送り出してくれる。
あなたも考えてみて欲しい。
声を掛けられるとしたら、どちらが嬉しいだろう。
①知っている人に、「ええよ。ええよ。大変だと思うけどゆっくり子育てしておいで」と、返事を返される場合。
②見たこともない人事担当者から「育休の手続きはこれで完了しました。子育て頑張ってください」と返事を返される場合。
少なくとも私なら、知っている人から激励されたいと思う。
もし手続きに不備があっても何とかしてくれそうという安心感も感じる。
逆に顔も知らない人からのメッセージは、定型文のコピペだと判断してしまうかもしれない。
実際にそれが不満だと言った人が過去にいたくらい、人の顔が見えるということは大切なことだと思う。
そして、これは次に示されていた統計である、メンタルヘルス対策への関心に大きく影響している要素になっているように私には感じられた。
人としっかり関わることができる環境の方が
“こころ”を充実させやすい
これが、この統計から私の出した結論だ。
思い返すと、こんな面談をしたことがあった。
「オーナーに恩はあるけど、引っ越しせざるを得ないからどうしても辞めないといけないんです…」
そう告げたのは、10人以下の小売業で働いている男性だった。
「恩があるというのは?」
「実は、私は孤児院出身なんです。学も無くて、今までずっと客引きとかホステスの送り迎えみたいな夜の仕事しかしてきていなくて。学歴も中卒だから仕方ないなってあきらめていたんですけど、今の妻と付き合うようになってから、昼の仕事でしっかり働きたいと思って転職活動をしたんです。メンタル不調で療養しながらね。本当に苦労したし、30手前で今の会社に勤められるようになって…内定出してくれた社長さんには本当にお世話になりました」
彼は続けた。
「本音から言うと、大変なことの方が多かったです。営業ということで採用されたんですけど、マニュアルもないし飛び込み営業みたいなことをたくさんしてきました。1件も取れずに焦る時期が半年くらいあったように思います。その時は辛かった…辛かったけど、社長も周りの人も話を聞いてくれたり励ましてくれたりして乗り越えられた」
「今思えば、夜の仕事の時は相談なんてできる人なんて全くいなかったんですよ。お店ごとは人数少ないですけど、組織としては元締めみたいな大きな組織があって。足りないところにヘルプという形で回されたりするから、毎日違う人と仕事してたりするんです。人が良く辞めるから、マニュアルは充実してるし、店長みたいな人も仕事はちゃんと教えてくれる。ただ、嬢によっても腹立つような態度の人結構いますしね。仕事以外の関わりはありませんでした。だからなのか、ストレスたまっちゃって。辞めて日雇いで暮らしていた時期があったり、占いにハマっていた時期があったり、当時はひどいもんでした」
頭をかき窓の外に視線を移しながら、彼は言葉を紡いだ。
私は、唐突にハッと思い出す。
私にも悩んで相談できなかった経験がある。
誰に話すでもない、ただただ毎日が不安で。
この仕事で本当にいいのか、答えが出ない悩みを抱えながらそれでも生活の為に仕事をこなす毎日。
仕事については色々聞けるのに、自分のことは話せない。
そんな漠然とした辛さを感じていた時期があったことを思い出していた。
彼は話を続ける。
「でも、気に掛けてもらえたから良かったようなもので。ふつうは転職して不安なんですなんて会社の人の誰にも言えないでしょ。だから聞いてくれた社長には本当に感謝してる。でも、どれだけ聞いてもらえても、最後まで自分からは話せなかった」
彼の気持ちに同感してしまいそうになることをこらえながら、私は話を促す。
「転職してすごく不安だったんです。」
「自分でもできるのかとか、この会社は大丈夫なのかとか、あの人は私のことをどう思っているんだろうとか。ほんとに色々なことを考えました。望んだ転職じゃなかったし、長時間労働でメンタルやられて療養した後に転職したもんだから…仕事の話はみんな教えてくれるし、助けてくれるけど何となくで話をすることって全くできなかった。いきなり中途で入ってきた30近い中卒の新人が、仕事をしてる人を捕まえて悩みなんて言えます?」
「もし私なら、悩みを言われたとしても、何で私なんだと頭を抱えてしまう。だって上司は部下の悩みを聞くことがメインの仕事じゃないから。メインの仕事の状況によって気持ちは左右されたりもする。どれだけ悩んで相談しても、相手の機嫌が悪かったらお互いにストレスじゃないですか?」
「だから、プロに相談するっていうのが本当に安心するんだなって療養してるときや、転職活動している時に思いました」
「会社は私を受け入れてくれたという実感は今でもあります。だからこそ、迷惑はかけられないし、助けてあげる余裕を持っていたいと思ってた」
堰を切ったように、全て言い切った彼は、穏やかな笑顔を私に向けてくれた。
眼鏡の奥から見える瞳は、少し赤みを帯び、うるんでいるような印象だった。
面談の中でこんな話をしてもらえると、本当にやっていて良かったなと思う。
あなたは、最初は不安としか言っていなかったクライアントが覚悟・後悔・安心といった様々な思いが感じられる言葉を使いながら、少しずつすっきりした表情になっていく瞬間を感じた事があるだろうか。
目頭が熱くなるような瞬間を感じることも私は経験がある。
小さい会社だからこそ、“こころ”を充実させるような関わりをすることができるというのは、単純に普段から接しているだけでなく、良くみてくれる人が身近にいる。
ただそれだけなのかもしれない。
もちろん大きな会社も、取り組みはできるだろう。
しかし、メンタル対策の重要性が高くなっているのは、人が多すぎて把握しきれていなかったり、異動や働き方の多様化によって物理的にも見づらくなっていることが挙げられるように思う。例えば、17時までの短時間勤務をしている女性の上司に対して、18時以降がメインの勤務時間であるメンバーがどうやって相談するのだろう。
メールや電話で、「漠然とした不安があるんです」なんて言える人がどれだけいるだろうか。
彼の言う通り、会社は社員の悩みを共有する為の組織ではない。
だからこそ、企業には普段からのストレス対策としての面談機会があることが望ましい。
その点、私たちキャリアコンサルタントは、“話を聴くプロ”だ。
彼の言葉を借りれば、話を聞くのがメインの仕事。
私たちキャリアコンサルタントは、“話を聴くプロ”だが、聴くだけでは不安もストレスも解消できるわけではない。
面談を通して千差万別のホンネを、一緒に紐解いていくことはもちろん、不安や不満をから来るストレスを少しでも感じることがないような、働きがいのある組織を作っていく為に、改善提案や教育方針の提示など職場視点での関わりも大切にしている。
だからこそ、日々違和感を検証し、仮説を立て個人にも組織にも全力で関わっていく。
個人の事情や感じ方という再現性の少ない要素にもしっかりと向き合い、ホンネを引き出しながら、一人ひとりにケアが届く職場を作っている。
もし、職場のメンバーの中に不安を感じている人がいたら、私たちキャリアコンサルタントのことを是非思い出して欲しい。
「制度」はあるが「こころ」がない。なんて揶揄されないように、職場と社員を繋ぐ「こころ」の充実を私たちは担っています。
投稿者プロフィール
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自信が無くて引きこもっていた自分が前に進めたきっかけは「聴いてくれる人」でした。大学卒業後から起業し「聴く」ことをベースに活動をしています。教育、面接、マネジメント、カウンセリング、講師と様々な複業の実践家でもある。
現在は「カウンセリング」の良さを広げる伝道師として活動を続けている。
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