面接官のオシゴト

面接官のオシゴト

私は普段から、面接をすることがある。
候補者を見極め、次のステージに進ませるかどうかのアドバイスを行っている。
外注で受けているのだが、だいたいは最初の面接を担当する。
ウソを見破ったり、期待人財かどうかなどを判断したりすることがミッションだとよく言われている。
とはいえ、私はそれが苦手だ。
話を、全部本当のこととして受け止めてしまうのだ。
だからこそ、エピソードをしっかり聞いて、ズレがないかなどはしっかりとチェックしている。
最近では先輩から指摘されることもなくなり、自信をもって候補者の前に立てるようになってきたと思う。
さらに、キャリアの専門家としてのポジションも大切にしていて、緊張を解き、強みを見つけ、面接という時間だけれど、候補者一人ひとりの人生に寄り添えるような関わりを大切にできるようになってきた。

普段気を張って、人を見抜くようなことをしている私にも、気を抜ききって仲間と食卓を囲み、お酒を傾けている時がある。
私にも、仲間がいる。
それは、大学時代からの仲で気のおけない3人だ。
1人はお調子者。ムードメーカーだが冗談や嘘も大好きで、トラブルを起こすのはだいたいこいつだった。
「え、ダメだった?ごめんごめんごめんw」
言ってから謝るタイプ。
もう一人は負けず嫌い。テストも格闘ゲームもポケモンも、彼にとってはいつも真剣勝負だった。
「別に私は負けず嫌いじゃない、勝負に真剣なだけだし、今の別に負けてないよね?」
何度聞かされたことか。
そしてもう一人が私だ。自分語りは得意じゃないが、人を見る目だけはあると思う。
何でも話せる気のおけない関係が10年も続いているのは、私の人を見る目があったからだと思うのは自画自賛だろうか。

ある時、いつものように3人でお酒を傾けていた時のことだ。
3人のうちの一人。
お調子者のやつがほろ酔い気分でみんなに話題を投げかけた。
「みんな株ってやったことある?やってるならやめといた方がいい」
最近すごい失敗をしたんだ……と、質問の返答も待たず、のべつ幕無しに語り始めた。

負けず嫌いな奴は腕を組みながら視線を下げ、うたた寝を始めたようだった。
そんなことは全く気に留めず彼はつづけた。
私が聞くしかなかった。

「最近全く戦う気がなくなったもの。それが株なんだ」
大学の時に株をやっていたが、ライブドア事件で負け、リーマンショックで負け、サブプライム問題で負けていた。
そんな負け続けの私が選んだのは、信託と国債。
自分に資産を増やす力はない。
そう思って、国や他人に資産の管理を任せた。

……こいつ大学時代に株なんてやってたんだ。今まで知らなかった。
新しい一面を垣間見ている。
私はこういう瞬間が好きで、面接官をしている節もあった。

彼は続ける。
「ある日曜日、メルマガが届いていたんだ」
タイトルは『絶対に当てる相場師です』
内容はPC画面のスクロールがいらない程度の分量の簡単なもので、ポイントは3点だけだった。
①株の基礎知識
②なぜメルマガを始めようと思ったか
③上がる厳選銘柄1件
株には全く明るくなかった。
諦めて別の道を探している私の元に、“絶対に当てる”と来た。

全てにざっと目を通した後に、最後の一文だけが心に引っかかった。
「投資は、最後は自分を信じられるかどうかです。私の判断を信じても信じなくてもいい。行動するかどうかはあなた自身が決めることです。儲けたのであれば、それはあなたの力です」

株は1万円で買えてしまうものだった。
しかし、期限があった。
買うのであれば、信じるのであれば翌日の証券取引所が開くまで。

本当に上がるのか……
1万円がいくらになるのか……
もし下がったら……

私は、今まで負け続けてきた。
勝負という舞台に上がらず、野次だけ飛ばしていた。
上がれば「言った通り」
下がれば「やっぱり」
人の勝負を見るだけ見て、結果が出てから批評するくそ野郎だった。

そもそもこのメルマガはなんだ。
いつ登録した?
フェイスブックやツイッター、web広告といったあらゆるものを踏み抜いていた私が覚えているわけもなかった。

心のどこかで、「自分で掴んでやる。勝ってやる。見返してやる!」
思いはするが、負けたくない。
負けた自分を認めたくないし、負けたと人に言うのも嫌だった。
100%勝ちたくて、勝った上で謙虚にふるまって、「すごい」とだけ思ってもらえれば良かった。
バカにだけは、されたくなかった。
軽くだけは、見られたくなかった。

…本当に知らない彼を見ている。
こんなに熱いやつだったっけ?
でもよく考えたらゲーセンで10000円かけて賞品を取った話とか、ムキになる一面は確かにあったと思う。

彼は話を続ける。
自分は成功しない。周りみんなは成功している。
そう感じる私は、周りの人の服の裾を掴むことに必死だった。

そして私は、株を買った……
「大丈夫、いうて1万円だから」
財布を落としたと思えば……
勝ちたいと思いながら、負けた時の言い訳を真剣に考えていた。

結論から言うとその株は上がった。
1万円だったものが1週間で1万3千円になった。
その時、私は思った。
「やっぱり。上がると思ってたんだ」
毎日株価を見るのは怖くて、月曜に買ったら、金曜になるまで見ないようにしていたのだが。

次のメルマガはまた日曜に来た。
同じ内容で、銘柄が1件添えられている。
その時は、深く考えもせずに買った。
今度のは5万円。
「儲けの分もあるし、下がったら売ればいい。」
軽い気持ちで買った株は、また上がった。

そして、また日曜にメルマガが届いた。
しかし、次の銘柄はなんと48万円。
私はこれで大幅に負けた。
1週間で40万を割り、今も回復していないから売るに売れない。
また、私は株で負けたのだ。

冷静な時なら、失敗しなかったかもしれない。
株は1株から買えるものもあれば100株単位の纏め売りでしか取り扱っていないものもある。その株は100株で48万円だった。
「今思えば、ミニ株制度で買えばよかったなんて思うよな…」

「あれからまた下がり15万近い赤字を抱えてしまった」
「それでも売るに売れず今もまだ持ち続けてる自分に腹が立つ……」
「メルマガ信じた自分もバカだった」
「でも、この手の情報は多い。あの日曜日に来るメルマガを購読解除しても、別のメルマガはひっきりなしに来ている。会社の数なんて星の数ほどある。自分じゃ調べきれない」
「勝ってたら、今日は奢ってやれたんだけどなw」

そこまでずっと黙っていた一人が負けず嫌いな奴が突然大きな声を出した。
「おいお前それ俺の話じゃねーか!!!!なんでお前知ってんだよ!!」
声を上げたのは負けず嫌いな奴だった。
お調子者が返す。
「え、これって言ったらダメなやつ?ごめんごめんごめんw」

私は、自分の目の曇りにようやく気付いた。
私は、また全部本当だと思っていた。
彼がこれだけ長く語っていた話は、全部別人のエピソードだった。
飲み会は、半ば修羅場を迎えているが、私にとっての気がかりは明日のことだった。

……明日からの面接官の仕事は、大丈夫かな。
本当にちゃんと候補者を見よう。
そう心に決めた。